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全国犯罪被害者の会■マーク 意見書・声明
司法制度改革推進本部「裁判員・刑事検討会」部会において
岡村代表幹事が意見陳述 --- 2002.9.24 ---
9月24日、「国民のための、21世紀に向けた司法制度改革」を標榜する、司法制度改革推進本部「裁判員・刑事検討会」部会において、参考人の意見聴取がなされました。
 このヒアリングは、今まで聴く耳を持たなかった同本部が、はじめて、犯罪被害者にも発言の機会を与えるというもので、この機会を逃すと、意見陳述の機会は二度となく、大変重要であるということから、当会の岡村代表幹事は、9名の団員と共にヨーロッパで司法制度の実状を調査中でしたが、フランスの調査を他の団員に委ね、急遽ドイツから帰国して、意見陳述を行いました。

 座長以下各委員には、終始熱心に傾聴していただき、犯罪被害者の実状を重く受け止めていただけたものと信じます。マスコミの方からも、大変インパクトがあり、とても感動的でしたとの感想が寄せられました。ご参考のため、以下に、事前に提出した意見書の全文を掲載します(当日はこれを基に意見を陳述してきました)。

司法制度改革推進本部  裁判員・刑事検討会 座長 井上正仁 殿
意 見 書
全国犯罪被害者の会(あすの会)
 代表幹事 岡村 勲
【一】犯罪被害者の刑事手続きに対する不信
1.犯罪被害者は何故捜査に協力するのか
犯罪によって被害、特に重大な被害を被った被害者(遺族を含む。以下同じ)が、加害者に対して厳正な刑罰が下されることを願うのは当然で、国がこの無念の思いを晴らしてくれると思えばこそ、捜査、公判に協力するのである。捜査協力は被害者にとって大変な負担である。葬儀の済まないうちから、何回となく事情聴取され、家宅捜索、実況見分の立ち会いなど、くたくたになる。
強制的にされた司法解剖後の遺体の引き取りも被害者の負担だ。自宅立ち入りを禁止された遺族、親族のホテル宿泊料も遺族持ち。性犯罪の被害者が恥を忍んで捜査官や法廷で被害状況を説明するのも同様の理由による。

2.犯罪被害者の利益を守らない刑事司法
ところが、刑事司法は公の秩序維持のためのもので、被害者のためのものではない、というのが我が国の司法である。最高裁判所平成2年2月20日判決は、「犯罪の捜査及び検察官による公訴権の行使は、国家及び社会の秩序維持という公益を図るために行われるものであって、犯罪の被害者の被侵害利益ないし損害の回復を目的とするものではなく、また、告訴は、捜査機関に犯罪捜査の端緒を与え、検察官の職権発動を促すものにすぎないから、被害者又は告訴人が捜査又は公訴提起によって受ける利益は、公益上の見地に立って行われる捜査又は公訴の提起によって反射的にもたらされる事実上の利益にすぎず、法律上保護されたものではないというべきである。」という。

このことは、捜査、公判と進むにつれてだんだんと犯罪被害者に分かってくる。頼りにしていた捜査官から十分な事件の情報は貰えず、報道機関から知らされることも少なくない。起訴、不起訴について意見を述べる権利も無く、最近までは、送検や起訴の事実や公判の期日まで知らされず、知らないうちに裁判が終わっていたというケースも多かった。公判段階に入っても、起訴状、冒頭陳述書、証拠カード、論告要旨、弁論要旨、判決書も貰えない。

傍聴席は報道機関の後列に座らされることも多く、加害者の関係者と混在して座らされることもある。現場写真や実況見分調書、証拠類は傍聴席には廻ってこないし、供述調書も要旨だけしか朗読されないこともあるから本当のところは分からない。甲号証、乙号証などの専門用語が飛びかって専門家でも混乱する。加害者は平気で嘘をつき、被害者の名誉を傷つける。傍聴席の被害者は腹の煮えくり返る思いがするが反論できない。

「違います」と2回叫んだだけで退廷させられた被害者もいる。「マイクの音量を高くしてくれませんか。」と頼んだ被害者は「傍聴席に聞かせるために裁判しているのではない」と一蹴された。ここにいたって、犯罪被害者は「自分たちは公の秩序維持の道具、裁判の資料に利用されてきただけで、自分たちのために捜査や裁判をしてくれていたのではない」ということに気づくのである。

そして刑事司法を恨み、憤るのである。犯罪被害者保護二法の施行や警察の努力もあって若干の改善が行われたが刑事司法は公益のためのもので犯罪被害者のためのものではない、という基本は変わらず、司法制度改革審議会の意見もこの基本を支持している。

【二】犯罪被害者を排除する刑事司法
被害者のために存在するのではないとする我が国の刑事司法は、その当然の帰結として被害者を刑事手続きから排除してしまっている。何の法的地位も権利も与えず、刑事裁判は加害者、弁護人、検察官、裁判官だけで行われ、犯罪の最大の利害関係人であり、事件の当事者である被害者を完全に蚊帳の外に置き、利用するだけ利用するというのが現在の刑事司法である。これでは被害者が納得するはずがない。民事損害賠償訴訟が実効を持たないことと相まって、司法不信を増幅させている。このような我が国の司法は、被害者以外の各方面からも非難の声があがっており、また国際的にも被害者保護の潮流からも取り残された感さえある。

【三】国連及び諸外国の状況について
ところで犯罪被害者と刑事司法との関係について国連及び諸外国の制度を概観すれば、各国とも犯罪被害者に対して相当の配慮を行い、犯罪被害者を刑事司法全般において実質的当事者として取り扱っており、1980年代以降は、犯罪被害者の保護及び権利の拡充は世界的な潮流となっている。

1.国連による犯罪被害者の権利確立の要請
国連は、1985年、犯罪及び権利濫用の被害者のための司法に関する国連基準規則宣言(UN Declaration of the Basic Principles of Justice for the Victims of Clime and Abuse of Power)により刑事手続における犯罪被害者の法的地位の拡充のための準則を示し、また、犯罪被害者のためのハンドブック(1998年)によりこの国際的標準化を要請している。


2.諸外国の制度について
諸外国の多くの国では、犯罪被害者は、刑事司法全般において実質的当事者として取り扱われている。その主要なものをごく簡単に略述すれば次のとおりである。
  • ドイツ
    ドイツ刑事訴訟法においては、「第5章 被害者の手続参加(Beteiligung des Verletzten am Verfahren)」という章が設けられ、そこには犯罪被害者の手続参加について様々な規定がおかれている。一定の重罪等(殺人、傷害、性犯罪等)についての訴追権者は検察官であるが犯罪被害者は公訴参加できる。この場合、在廷する権利、記録閲覧権、証拠申請権、質問権、忌避権、上訴権など広汎な訴訟上の権利が与えられる(公訴参加:Nebenklage)。

    また、一定の軽罪については原則として犯罪被害者だけが訴追権を持つ(私人訴追:Privatklage)。これは、端的に刑事訴追を犯罪被害者に認めたものにほかならない。さらに、犯罪被害者またはその相続人は、犯罪により加害者に対して生じる財産上の請求権を刑事裁判において行使することができる(附帯私訴:Entschadigung des Verletzten)。これらに関して、弁護士の補佐及び代理を受けることができるものとされている。

  • フランス
    フランス刑事訴訟法においても、冒頭において「序編 公訴及び私訴」という章を設けて私訴に言及し、その後の手続きにおいても随時私訴について言及する。 フランスでは犯罪被害者は私訴権(私訴:action civile)をもつ。これは損害賠償請求の形を取りながら、実質は国に対する処罰請求権とも言えるものである。検察官によってすでに公訴提起がなされていれば参加し、起訴されていないときは、予審判事に対して告訴状を提出して予審開始を求めることができる。

    その地位は私訴原告人(partie civile)と呼ばれる。私訴原告人となれば、予審、判決裁判において、記録閲覧請求権、一定の証拠申請権等が与えられ、判決裁判所での在廷権など刑事手続きにおいて広汎な権利が与えられている。私訴の制度は、ごく僅かの金銭を請求する場合にも認められており、検察官による公訴権の運用のチェック、被害者の保護及び国家刑罰権の適切な運用の点で有用であると評価されている。

    また、フランスでは司法省が、一般市民を対象として「被害者の権利のガイド」(Guide des droits des Victimes)という大部のガイドブックを発行するほか、被害者支援の一環として、「被害者の権利」「被害者の援助」と題するパンフレットを配布し、この中で私訴についても他の援助制度と同等に解説を行い、私訴制度の啓蒙を行っている。

  • イギリス
    イギリスでは、私人訴追が原則である。1985年に犯罪訴追法が制定され、検察官制度が導入された後も同様と解され、被害者の権利保護の観点から意義あるものとされている。また、検察官が起訴不起訴を決定する場合においても被害者の意見を聞くべきものとされている。 さらに、近時、犯罪被害者の権利が拡充された。1990年に被害者憲章(Victims Charter)、1996年に新被害者憲章が相次いで出され、漸次権利の拡大が行われている。

  • イタリア
    民事請求の形式により刑事裁判に参加することができるものとされている。そして、民事当事者としての地位を取得すると、冒頭陳述権、証拠申請権、証人に対する反対尋問権などが認められている。

【四】我が国の刑事司法における犯罪被害者の取扱いの現状について
1.最近の犯罪被害者保護の動きについてこのような世界的な潮流の中で、我が国でも犯罪被害者の保護制度がようやく打ち出されるようになり、2000年5月12日には犯罪被害者保護二法が成立し、1999年7月16日には犯罪被害者等給付金支給法が改正され、犯罪被害者に対する補償の内容が拡大した。しかし、保護二法の定める被害者に対する配慮は、あくまでも配慮であって権利ではない。僅かに意見陳述制度が刑事手続きのなかに頭半分出した感があるが、これとて十分に活用されているとはいえない。被害者保護制度はようやく第一歩を踏み出したに過ぎないのである。

2.法務省の見解について法務省は、平成9年に犯罪被害者の被害回復制度について国民から意見を公募したが、この検討項目の中で、附帯私訴、公訴参加の導入の可能性を挙げている。法務省自身が近時の世界の潮流を考慮したものということができる。

3.司法制度改革審議会の答申についてこのような中で、平成13年6月12日、司法制度改革審議会は21世紀の我が国の司法制度についての意見書を提出したが、この中で、これまで犯罪被害者に関する視点が欠如していたことを認め、「刑事手続の中で被害者等の保護・救済に十分な配慮をしていくことは、刑事司法に対する国民の信頼を確保する上でも重要であり、今後も一層の充実を図るため、必要な検討を行うべきである。」と述べている。
ところが、この意見書は、犯罪被害者の法的地位の確立や権利の充実に関して何ら具体策を示していない。加害者については、被疑者段階や少年審判における公的費用による弁護人、付添人の選任権を認めるなど権利拡大の具体的な提言を積極的にしているだけに、同審議会の犯罪被害者に対する消極的な姿勢は残念である。

【五】犯罪被害者の刑事手続きへの参加の必要性
1.犯罪被害者の当事者性
  1. 犯罪被害者は、加害者と並んで犯罪事件の当事者であり、最大の利害関係人である。
  2. 犯罪被害者は事件の当事者であるから、本来的に当該事件について刑事手続きに於いて当事者となる権利を有すべきである。
ところで、刑事手続きは加害者に対して刑罰を科する手続きである。刑罰の本質については古来いろいろいわれてきたが、一般予防、特別予防、教育など様々な要素が混ざり合っており、一元的に割り切ることはできないが、応報の観念が必ず存在することは否定できない。被害者が加害者に対して厳正な刑罰を望み、それが科せられることが被害者の立ち直りにも必要である。

不相当に軽い刑罰が科せられることがあれば、個人的法益を害された被害者の応報感情は著しく傷つけられ、不利益を受けることとなる。被害者が再起不能の苦しみを続けているとき、加害者が短期で出所するようなことがあれば、被害者がさらに大きなダメージを受けることは容易に想像できることである。

また被害者は、発生した犯罪の真実、詳細を知るとともに、加害者の一方的な主張に流されることなく、被害者の名誉を守りたいとの思いに駆られるのも当然である。 そうだとすれば、このような刑事手続きに被害者や遺族が参加すべきことは、両当事者に告知聴聞の機会を与えることを主要な内容とする適正手続きの保障の観点からも見れば、至極当然のことであり、被害者や遺族だけを蚊帳の外に置くことは、およそ適正手続きとは認め難い制度という外はない。

2.私人の関与についての沿革的理由
法務省は、平成9年に犯罪被害者の被害回復制度について国民から意見を公募したが、この検討項目の中で、附帯私訴、公訴参加の導入の可能性を挙げている。法務省自身が近時の世界の潮流を考慮したものということができる。

3.真実の発見について
ところで、犯罪被害者自身は、まさに当該事件を身をもって体験した当事者であるから、当該事案についてもっともよく知る者である。だからこそ、当該事件について真っ先に協力を求められ、証人として出廷を求められるのである。 そこで、このような被害者自身が刑事裁判に参加し、公判廷において自らの経験をもとに訴訟活動を行うことは、真実発見にも資するものである。

4.犯罪被害者を刑事手続に参加させることの許容性について
ところで、犯罪被害者が刑事手続に参加することについて、何らの支障もない。先ず、憲法上の問題が見当たらないことは明らかである。次に、犯罪被害者の刑事手続への参加を認めると、現行の刑事訴訟法の多くの条項にかかわる改正を行うべきことになる。

しかし、これは現行刑事訴訟法の最も基本的な原則である当事者主義の構造にも反するものではなく、当事者として犯罪被害者が加わるだけである。さらに、現行刑事訴訟法においても、告訴、準起訴手続、検察審査会による不起訴処分のチェック等の制度は、被害者の関与を認めるものである。そして、刑事手続における犯罪被害者の地位の向上は、その分被告人の権利を減少させることを要求するものではない。被告人の権利とは関係なく犯罪被害者の権利を付与せよというだけなのである。
【六】犯罪被害者の刑事手続きへの参加の必要性
上記の観点から見れば、犯罪被害者を刑事手続に参加させることが是非とも必要である。そして、犯罪被害者の刑事裁判への参加の形態については、諸外国の例その他から見て、以下のとおり様々な方法が考えられる。そして、犯罪被害者の立場、国民世論、世界的潮流からみれば、我が国においても一日も早くこれらの制度を検討して導入すべきものと考える。
1.犯罪被害者の刑事手続への参加の制度
  1. 私人(犯罪被害者)の公訴参加
    我が国の刑事訴訟法においては、ごく一部の例外を除き起訴独占主義が貫かれ、検察官による起訴独占が行われている。これについては、後述の通り犯罪被害者にも刑事裁判を起動させる制度を認めるべきであると考えるが、起訴独占主義を前提とした場合においても犯罪被害者が検察官より提起された訴訟手続に当事者として参加することを認めるべきである。

    そして、検察官は、公益の代表者であり、もともと被害者と立場を異にするものであるから、犯罪被害者は、被害者としての立場から、訴訟活動を行うことを可能にすべきである。犯罪被害者は個人としての法益があり、公益の中に埋没すべきでないのであるまた、公訴参加した犯罪被害者に対しては、刑事訴訟法上の当事者としての地位及び権限を認めるべきである。

    すなわち、検察官の隣に座る在廷権、公判期日に関する意見を述べる権利、起訴状・冒頭陳述書・論告要旨・判決書を受領する権利、証拠閲覧謄写権、証拠申請権、反対尋問権、事案及び求刑に関する意見陳述権などが認められるべきである。

    前述のとおり、ドイツではこの制度が認めらている。そして、フランスにおいても検察官が予審開始請求等により裁判を開始した後に私訴を提起すると、以後、犯罪被害者は私訴原告人として刑事裁判への参加が可能になるのである。


  2. 犯罪被害者による刑事裁判の始動
    この制度としては、ドイツの軽罪型の私人訴追の制度すなわち犯罪被害者が端的に刑事裁判を開始する制度とフランス型の私訴及びドイツの附帯私訴すなわち犯罪被害者が刑事手続の中で損害賠償を求めて刑事裁判を開始する制度がある。これらは、いずれも犯罪被害者が刑事裁判を始動させる制度であり起訴独占主義を大きく変えるものであるが、私人訴追や私訴がヨーロッパ各国で行われていることはすでに述べたとおりである。

    また、我が国においても旧刑事訴訟法のもとでフランスの私訴型の制度である附帯私訴が行われていたのである。そして、このうち附帯私訴は、被害者の民事的救済にも役立つものである。すなわち、我が国においては犯罪被害者が加害者に対して犯罪により被った損害の賠償を請求するためには刑事裁判と別に民事訴訟を提起することが必要であるが、犯罪により多大な苦痛を受け、刑事訴訟への協力等により大きな負担を受けている犯罪被害者にとって、新たに民事訴訟を提起することはかなりの困難を伴うものである。

    しかし、刑事裁判の中でこの審理を行うことが可能であれば、犯罪被害者にとっての負担は相当程度解消することは明らかである。また、附帯私訴の制度によれば、一定の範囲の審理を一括して行いうるのであるから訴訟経済にも資するものであり、また、判決の不一致を回避することも可能となる。なお、この附帯私訴については、旧刑事訴訟法のもとにおいて利用が少なかった為に廃止されたとされている。

    しかし、犯罪被害者の権利が自覚されるに至った今日においては全く様相を異にするものと思われる。そして、この制度が上述のような大きな役割を持ちうる以上、実際に利用が少ない場合は、ドイツ、フランスに見られるように、制度を改善して利用促進を図るのが本筋であると思われる。


  3. 公費による被害者代理人制度の確立
    犯罪被害者が上記のような権利を認められたとしても、犯罪被害者は法律的知識を有しないのが通常であるから、法的支援を受けられなければ、上記権利は絵に描いた餅になり、実際には、犯罪被害者は何ら権利行使を行い得ないことになる。すなわち、刑事手続への関与はもとより、捜査機関との折衝、公判における検察官との協議、記録の閲覧謄写手続、意見陳述の補佐、マスコミ対策等どれ1つをとってみても法律の専門家の援助を要するものばかりだからである。

    そこで、犯罪被害者の諸権利を実効有らしめる為には、弁護士の援助を受けることができる制度を確立すべきである。そして、加害者に対して国選弁護人制度が認められ、また、被疑者段階でも公費による弁護人制度が検討されていることを考えれば、これとのバランスにおいて、費用を支払うことができない犯罪被害者のために公費による代理人制度を制定すべきことは最低限の要請である。



2.その他の制度について
  1. 検察審査会の権能の拡充
    ところで、我が国においては前述の起訴独占主義に加え、顕著な起訴便宜主義が貫かれており、検察官による訴追裁量が広汎に行われ、相当程度の犯罪が起訴猶予とされている。しかし、これは、犯罪被害者から見れば、犯罪被害者の被害を不問に付すものであり堪え難いことも多い。

    そこで、犯罪被害者は検察審査会に審査請求を行うものであるが、現在の制度では、検察審査会が起訴相当、不起訴不当の議決をしても検察官はこれに拘束されないものとされている。しかし、これでは、犯罪被害者の心情を無視するものであるだけでなく、そもそも検察審査会の存在意義にかかわることである。この点に関し、司法制度改革審議会は、検察審査会の議決に一定の拘束力を持たせることを提案した。これは、歓迎すべきことである。

    ただし、同審議会が、検察審査会を単に民意の反映ないし国民の司法参加という観点だけから捉えている点は問題である。検察審査会が不当な不起訴により苦悶する犯罪被害者に対する救済の手段となり得るよう制度設計を行うべきである。そして、そのためには、犯罪被害者に対し、検察審査会に意見書や資料を提出できるだけでなく、意見を述べる権利を付与すること、その前提として捜査記録を開示することを内容とすべきである。

    また、一旦不起訴処分を行った検察官に、検察審査会の議決の拘束力をもって公訴提起を強制するとしても、実際上訴訟遂行に熱が入らないことも想定される。そこで、この場合、起訴、訴訟遂行の主体についても検討すべきである。司法制度改革審議会の意見書も「起訴、訴追遂行の主体等についても検討すべきである」としているのもこの趣旨と解される。そこで、現行法における準起訴手続を拡張する制度を確立するなどして、不当な不起訴への対策を検討することが必要である。

  2. 捜査機関に対する捜査開始命令
    犯罪被害者が、犯罪により、特に反復的な犯罪によって被害を受けた段階で警察に相談し、または告訴をしても警察が「事件性がない」などといって捜査に着手せず放置した結果、殺人にまで発展した事件が少なからずあったことは記憶に新しいところである。このような惨事を防ぐ為にも、犯罪被害者が告訴をした場合において捜査機関が捜査に着手しないときは、一定の機関が、一定の要件のもとに捜査を命じる制度を設けるべきである。

【七】おわり
犯罪被害者に信頼されない刑事司法は、国民に信頼されない。
司法改革審議会は、国民から信頼される司法の構築を目指しながら、刑事司法は公の秩序維持のためであり、犯罪被害者の利益のためにあるのではないとして犯罪被害者を刑事手続きから排除する現行法制度を維持している。ここでいう信頼されるべき国民とは誰のことか。一般の国民は、学生時代に刑事裁判を傍聴したことがあるくらいで、その後は裁判所に行ったこともなく、刑事司法と無関係に生きている。

刑事司法と関係のある国民といえば、加害者と犯罪被害者だけしかいない。犯罪被害者は現行刑事司法制度に対して怨嗟の念を抱いていることは冒頭で述べたとおりである。犯罪被害者が信頼しない刑事司法制度を、どうして国民が信頼すると言えるのか。審議会はこの基本的部分の認識に欠けていると思われる。貴検討会に於かれては、この点を十分に理解され、犯罪被害者、国民に信頼される刑事司法の創設に力を尽くしていただきたい。

全国犯罪被害者の会では、近い将来、諸外国に調査団を派遣し、その制度を調査の上、犯罪被害者が刑事司法手続に参加する権利を承認する立法案の要綱を策定して司法改革推進本部に提言する用意がある。司法改革推進本部におかれては、当会の提言を受け止め、犯罪被害者の刑事手続における権利を拡充する立法を実現すべく尽力していただきたく、ここに意見を申し述べる次第である。
 
以 上
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