TOPICS(ニューズ・レター)


ヨーロッパ調査団の必要性について
幹事 本村 洋 (2002.10.15)

 犯罪にあった被害者は、犯罪行為により、生命・身体・精神・生活などを著しく侵害される1次的被害以外に、マスコミの過度な取材や報道、近隣の人々の、興味本位の噂、事件が原因による家庭崩壊など、様々な形で2次的・3次的被害を受ける。

 しかしながら、現在の日本は、前述した被害者を取り巻く環境を改善する以前に、現在の刑事司法制度そのものが、被害者の人権を著しく侵害している。
 被害者は、事件後の警察や検察の捜査過程で長時間に亘り事件に関することから自己のプライバシーにまで及ぶ様々な内容の事情聴取を受けるが、一方で事件に関する情報は一切提供されず、その後も警察・検察の捜査記録は被害者に開示されることはない。

 さらに、刑事裁判の公訴権は国家(検察)が独占し、公訴を提起する権利も与えられなければ、公判においては、訴追権を行使した国家(検察)と国家から訴追された被告人という訴訟関係から、被害者は除外され、意見陳述や被告人に反論する機会すら保障されていない。当然ながら上訴権はなく、被害者は、国家が下した判決に従うほか術がない。

 平成12年11月に施行された改正刑事訴訟法により、意見陳述をすることが可能となったが、意見陳述権の行使は、裁判官の裁量下にあり、例え意見陳述が裁判官に認められても、その発言内容は証拠として採用されることはない。
 平成2年2月20日、最高裁判所は「犯罪の捜査及び検察官による公訴権の行使は、国家及び社会の秩序維持という公益を図るために行われるものであって、犯罪の被害者の被侵害利益ないし損害の回復を目的とするものではない」と明言しており、裁判所は、刑事裁判において被害者の被害回復を図らないばかりか、裁判が、被害を増大させていることを黙認しているのである。

 被害者自らの自主救済の手段として、民事裁判による損害賠償請求が可能であるが、民事裁判が被害者へ多大な負担となるだけでなく、加害者が検挙されていない場合や加害者に支払い能力がないなどにより損害賠償制度が機能していない実情を知りながら、国家は何ら対策を講じていない。日本の刑事司法は、犯罪被害者を無視し続けてきたのだ。

 現在、司法制度改革審議会の答申を受けて、21世紀へ向けての司法制度の改革が動き出している。残念なことに、司法審議会の答申では、被害者の権利については現状のままであった。当会は、その答申に対し、先述の「刑事司法は社会秩序維持のために存在し、被害者のために存在するのではない」という最高裁判決の見直しを強く求め、刑事司法の本質論を十分審議して欲しいと意見書を出したが、未だ回答がない。  

そのため、当会自ら、被害者の被害回復と被害者感情を尊重した刑事司法制度を採用しているドイツとフランスに、10名の調査団を、本年9月15日〜29日までの2週間に亘り派遣し、詳細な調査を実施するに至った。この調査結果をもとに、新たな刑事司法制度を、国家に提言する予定である。

 被害者の権利確立の活動を行っている過程で「被害者は、応報感情のままに言葉を発しているだけだ。応報感情に流されてはいけない」といった主旨の言葉を耳にすることがある。これは、大きな誤解である。

 私達被害者は、加害者に対する怒りや憎しみは当然あるが、その感情のままに活動している訳ではない。犯罪により被害を受けた人に対する国家の処遇が、あまりにも理不尽であり、我々の正義感が許さないからこそ、被害者のための正義を実現するために声を上げているのである。故に、今回のヨーロッパ調査団派遣は、ただ単純に他国の法律を学ぶだけでなく、日本に、新しい正義を実現するための、貴重な活動なのである。

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