TOPICS(ニューズ・レター)


ヨーロッパ調査を終えて
― ハイデルベルクの銀杏の葉 ― 
 弁護士 守屋 典子 (2004.12.20)

みなさんもご存知のとおり、我が国の犯罪被害者補償制度はきわめて不十分なものです。

今回、私は10月上旬にあすの会が発足5周年にあたりおこなった被害補償の先進国であるイギリスとドイツの制度調査に、イギリス班の一員として参加させていただきました。 イギリスでは、1995年に犯罪被害補償法が制定され、1級から25級までの障害等級表(タリフ・スキーム)に基づいて、被害者への支給額が一律に決定されるという制度ができました。その上に、28週間をこえる期間就労能力を失った場合には所得補償がなされ、その上、車椅子や住居の改造などが必要な場合には、特別補償としてその費用が一括で支払われることになっています。上限は50万ポンド(約1億円余)です。

ドイツでも、労働能力喪失率30%以上の状態が6ヶ月以上継続した場合には、年金方式により、減収額の42.5%の支払が受けられる制度になっています。その他にも、両国とも医療費はすべて無料など、いろいろな社会保障制度が充実していて、十分とは言えないまでも、犯罪被害者が生活に困窮する状態に陥るのを防ぐ制度ができています。

我が国においては、社会保障制度一般も両国のように充実していません。そのような制度の下でどのような補償制度をつくるかは大変難しい問題ですが、先進国の制度の良い点を組み入れ、我が国にふさわしい補償制度の実現に向け努力していきたいと思います。

10月9日の午後、予定していたすべての仕事を終え翌朝の帰国を前にして、私たちはフランクフルトから電車で約1時間のところにあるハイデルベルクに足をのばしました。古城のある丘の上から美しい街の眺めを見ていた時、頭上の銀杏の木からひらひらと1枚の黄色く色づいた葉っぱが舞い降りて、私の左掌の上にす〜っと落ちました。まるで、私の手の中に降りることが決まっていたかのように、ごく自然に入ってきたのです。とても不思議で、なんとなくいいことがあるような気持ちがしました。

帰国して、たまっていた新聞に目を通していたとき、10日の朝日新聞朝刊の「天声人語」欄にハイデルベルクの記載があるのを見つけ、驚きました。10日の朝といえば、ちょうど私の手に銀杏の葉が舞い降りてきた頃です。天声人語の書き出しはこうなっていました。
「ドイツの古都ハイデルベルクで、ゲーテがイチョウの葉を1枚手にして詩を書いた。それを、晩年ひそかに愛した人へ送る。《東の国からはるばると/移し植えられたこの葉には/心ある人をよろこばす/ひそやかな意味がかくれています》」 全くの偶然だと思います。でも、良い補償制度が作れそうな、そんな勇気が湧きました。

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