VOICE (ニューズレター)


人権擁護法案について思うこと
幹事 本村 洋 (2002.4.25)

平成14年3月8日に「人権擁護法案」が閣議決定され、国会に提出されたことで、また一つ犯罪被害者に深く関わる新たな法案が整備されつつある。
 この法案は、
事件報道において犯罪被害者や加害者の家族らの名誉や生活の平穏を害する私生活報道、取材拒否者への反復取材などが人権侵害に当たると規定するものである。
 過剰な事件報道などによる「報道による人権侵害」を差別や虐待と同列に位置付け、調停などの対象としている点は先進諸国には例がなく、憲法で保障された「表現の自由」や「報道の自由」に抵触する恐れがあると野党からの批判があり、また、NHK・日本新聞協会・日本民間放送連盟は共同で「人権擁護法案を容認できない」という声明を政府に申し入れしたことなどで物議をかもしている。

 現代社会の中で、国家や企業などが活動を行なっていく上で、万物全てのものに恩恵を与えることは難しいと思う。例えば、企業が生産活動を行なうことで人間の生活が豊かになった反面、地球の自然環境は破壊され続けており、実際に高度成長期には企業活動のために様々な公害が発生し甚大な被害を受けた方々が多くおられることは周知の事実である。それ故、公害処罰法などが制定され、国家が企業活動を監視し、更に産業廃棄物などには多くの規制があり、優良な企業は例え利益が大幅に減ろうとも多大な投資を行ない、国家の規制した環境基準を超えないように日々努力している。

 本来ならば、この様な法や規制がなくても、企業活動により公害などを引き起こさないようにしなければならないのだが、企業は利益追及団体である以上、時として利益追及のために企業倫理を無視した行動を行なう可能性が否めないため、そして、一度公害を引き起こすと、その結果があまりにも重大なため、法により厳しく規制するのである。

 報道機関は、ジャーナリズムの追及を目的としているが、基本は利益追及団体であり、その本質は通常企業と何の差異はないと思う。企業が物を生産するように、報道機関は情報を加工し様々な媒体で我々国民に情報を提供する。

 現代社会は情報社会であるため、報道機関は膨大な権力を持つことは必然である。私達犯罪被害者の問題が社会の認識を深めたのも、報道機関の活動の恩恵を受けていることは事実であり、深く感謝している。
 しかし、その反面、
過度な事件報道や事実誤認による報道で甚大な被害を受けている人も多く存在する。これは、公害と言っても過言ではないと思う。私は何でも法律で規制すれば良いとは思っていない。しかし、一度公害が発生するとその結果は甚大なのである。
 だからこそ、法によって規制が掛けられるのである。
「表現の自由」や「報道の自由」は当然ある。しかし、これらが全てに優先するわけではないことも当然であり、報道被害改善において、もはや、 報道機関の自主規制のみでは不充分であると国家に認識された点を報道機関はまず真摯に内省すべきであると思う。

被害者の権利と被害回復制度の実現を強力に推進していこう。

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