VOICE (ニューズレター)


被害者参加制度施行1年、参加反対論はどうなったか
代表幹事  岡村 勲

被害者参加制度が実施されて11か月、500件以上の参加があったと思われる。

 日弁連会長、進歩的と称する学者、被害者と司法を考える会(犯罪被害者は2、3人しかおらず、大部分は学者などで構成されているが、何故か被害者団体と呼ばれる奇妙な団体)などは、被害者の参加は「法廷が復讐の場になる」「被告人が萎縮する」「法廷が混乱する」「訴訟が遅くなる」「刑が重くなる」、果ては「被害者の負担を重くする」といって猛反対した。

 ところが制度が始まってみると、何の問題も起こっていない。参加経験者はみなこの制度に感謝し、マスコミも好意的に報道している。

 犯罪には、加害者と被害者がいる。そのどちらを助けるかと問えば、国民は即座に「被害者だ」と答える。ところがヒラメのように右目を失って左目しか見えない日弁連と「進歩的学者」は、加害者のことばかりで被害者のことを考えない。

 今年8月に行われた第13回 国際被害者学シンポジウムで、私は「日弁連は人の命を奪っただけでは承知せず、被害者の人権まで奪わなければ満足しない。日弁連は、加害者が可愛くて仕方がないのだ」と講演した。

 鉄砲もナイフも持ち込めない参加人がどうやって復讐できるのか。加害者が被害者の前で小さくなるのも当たり前の話で、でかくなるようでは再犯の恐れ充分だ。参加人の前で嘘がつけなくなって真実を話した被告人はいたが、緊張のあまり口がきけなくなった被告人はいない。

もしいたら緊張をほぐしてやるのが弁護人の役目だ。確かに参加によって刑は重くなっていたようだ。これは見逃されていた被害者の実態が、参加によって裁判所が知るようになったからで、刑が正常に戻ったのだ。

被告人が法廷を混乱させた例はあるが、参加人が混乱させたことはひとつもない。参加による訴訟遅延も起こっていない。参加人の指摘を受けて捜査をやり直し、被告人の嘘がばれた例はあるが、これはノーマルなことで訴訟遅延ではない。参加は被害者の負担を重くするという見解も、自分たちの主張を正当化するもので腹が立つ。

被害者は、どこにいても重い負担を背負っている。被告人の顔を見たくなくて傍聴に行かないのも負担、傍聴席で反論できずに坐っているのも負担。参加人席にいる方がよっぽど負担が少ない。

被害者参加は強制ではないから、いやなら参加しなければ良いだけの話である。求刑通りの判決がでなくても、求刑したという達成感がある

 聞くところによると、法廷の活動について「被害者がやるべきか、被害者参加弁護士がやるべきか」という議論が、弁護士や弁護士会でされているという。なかには「訴訟行為だから弁護士がやるべきだ」という弁護士もいるそうだが、とんでもない話だ。

 そもそも参加制度は、被害者が必死に運動して作った制度である。被害者が苦しい中でこの運動を行ったのは、被害者自身がバーの中に入って、自分の口で、直接加害者に質問し、事件の真実を確かめ、被害者の名誉を守り、求刑もしたいという切実な思いからだ。

弁護士に代行してもらいたいと思って作った制度ではない。ただ、裁判には専門的技術的な知識もいるし、専門家の援助を受ける必要があるということでうまれたのが、被害者参加弁護士である。

あくまで被害者を補佐するもので、被害者を差し置いて行為できる立場にないのに、被告人の弁護人と同じように、弁護士が主体になって訴訟を進行するものだと勘違いしている弁護士がいて、参加人を傷付けている例がある。

同じ国費で弁護士を付けるにしても、被疑者・被告人の場合は「選任」、被害者参加弁護士の場合は「選定」と分けている。被告人の弁護人には、被告人の意思に反しても行動する固有権があるが、参加人弁護士にはそれがなく、被害者から委託を受けた事項だけしかできないからである。

参加人弁護士は、被害者が十分に活動できるよう、検察官と交渉し、捜査記録や証拠品を閲覧謄写し、情報を集め、それを参加人に伝えて、アドバイスをする。いわば黒子だ。

自分で述べられない被害者、性犯罪、暴力団犯罪の被害者の場合は、弁護士が質問せざるをえないだろうが、あくまでも被害者の意思に従わなければならない。  弁護士がどんなに努力しても所詮被害者の気持ちは分からない。正確に代弁することは不可能なのだ。

 独身の男性が殺害され、被害者の姉と弟が参加した事件があった。  姉は唯ひとつだけ被告人に質問した。「私は弟の臨終に立ち会えませんでした。弟はなんと言って旅立ったのでしょうか。弟の最後の言葉を知りたいのです。教えてください」と。加害者は体を震わせながら答えた。

「私が首を絞めていたから……喋ることはできなかったけど……声は出せませんでした。私への恨みを言っていたのではないかと思います。」法廷はシンとなった。

 この質問を弁護士がしたらどうなるか。半分の効果も挙げないだろう。遺族が腹の底から声を絞り出して質問し、求刑してこそ、被告人にもその他の関係者にも強い影響を及ぼすのだ。
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